先日、あるイベントの送迎手配を担当しました。
地方の施設へ参加者を送迎するため、現地のタクシー会社や貸切バス会社を調べ、ホームページの問い合わせフォームから何社かに連絡しました。
ところが、3日、4日たっても返事がありません。
仕方なく電話をしてみると、ある会社からは「現在、ホームページからの問い合わせは確認できない状態です」と言われました。
問い合わせフォームが表示されているのに、問い合わせを受け取れないというのです。
別の会社では、受付の方に問い合わせについて尋ねても、「担当者がいないので分かりません。夕方にもう一度電話してください」という対応でした。
外から見ると、改善した方がよい点はいくつもあります。
・問い合わせフォームが機能していない。
・ホームページからの連絡を確認する仕組みがない。
・担当者が不在になると、問い合わせへの対応が止まる。
こうした状況を目の当たりにして、私はふと、10年ほど前に起業した頃の自分を思い出しました。
当時の私は、身の回りにある不便や非効率を見つけるたびに、「ここには商売の可能性があるのではないか」と考えていました。
おそらく、あの頃の私なら今回の光景を見て、こう考えたはずです。
「これはビジネスチャンスではないか」
ホームページの改善を提案できるかもしれない。問い合わせ対応の仕組みを整えればよい。こうした会社は他の業界にもあるはずだから、営業先を探してみよう。
実際、私は53歳の頃に一度起業しています。
今振り返れば、自分が改善できる問題を見つけ、それを商品にすれば仕事になると考えていた部分がありました。
しかし、今の私は少し違う見方をします。
「問題がある」と「解決したい」は違う
問い合わせフォームが動いていないことは、客観的に見れば問題です。
しかし、その会社自身が困っていなければ、それは経営課題にはなりません。
電話で予約が入っている。既存顧客から仕事が来る。今のやり方でも事業が回っている。
その状態で、外部の人から「ホームページを改善しましょう」「問い合わせ対応をデジタル化しましょう」と提案されても、相手にとっては優先順位が低いのです。
課題が存在することと、その課題を解決するためにお金や時間を使いたいと思っていることは、同じではありません。
10年前の私の発想は、こうでした。
「問題を見つけた」
「自分なら直せる」
「だからサービスとして売れるはずだ」
これは、自分が提供できるものを起点にした発想です。
独立プロフェッショナルとして仕事をする今は、次のように考えます。
「相手は本当に現状を変えたいと思っているか」
「変えたいけれど、自社だけでは進められない状態なのか」
「外部の経験者を受け入れる準備があるか」
勘違い起業は、「自分なら直せる」から始まります。
独立プロフェッショナルは、「相手は本当に変えたいのか」から始まります。
ここが、私自身の大きなOS変換の一つです。
OS変換1 課題がある会社ではなく、変わろうとしている会社を探す
今、私はスタートアップや若い会社の仕事に関わっています。
こうした会社も、業務の仕組みが十分に整っているとは限りません。
むしろ、事業が急速に成長しているため、経理、人事労務、採用、法務、顧客対応、業務管理などが追いついていないこともあります。
代表者や若いメンバーが、本来の事業を伸ばす仕事と、会社を運営するための仕事を両方抱えています。
地方の小さな会社と同じように、手が回っていない状態です。
しかし、決定的に違うことがあります。
彼らは「何とかしたい」と思っています。
・このままでは事業の成長に対応できない。
・代表者だけに業務が集中している。
・担当者によってやり方が違う。
・社内に経験者がいないため、正解が分からない。
課題を認識し、変える必要性を感じているのです。
独立プロフェッショナルが価値を提供できるのは、単に問題の多い会社ではありません。
課題を自分ごととして認識し、変わろうとしている会社です。
さらに言えば、次のような条件がそろっている会社です。
・課題を認識している
・現状を変えたいという意思がある
・社内だけでは手が回らない
・外部の経験や知見を受け入れる姿勢がある
会社の年齢や規模だけで判断するものではありません。
大切なのは、その会社に「変化への意思」と、外部の支援を受け入れる「受援力」があるかどうかです。
困っている会社を探すのではなく、変わろうとしている会社を探す。
これが、独立プロフェッショナルとして案件を見るときの基本だと考えています。

OS変換2 自分の作業時間ではなく、企業のコストを見る
独立プロフェッショナルとして働く場合、報酬の形にはいくつかあります。
月額固定の契約もあれば、実際に稼働した時間に応じて報酬が支払われる時給型の契約もあります。
時給型の業務委託では、自分が働いた時間そのものが発注企業のコストになります。
先日、システム上で、ある受講生の登録情報を探す業務がありました。
名前を検索しても見つからない。関連しそうなシートや名簿も確認しましたが、それでも見つかりませんでした。
こうした場面で、見つかるまで自分一人で探し続けることもできます。
しかし、探している時間にも報酬は発生します。
もちろん、最初から何でも人に聞けばよいわけではありません。まずは自分で一定範囲まで調べる必要があります。
それでも見つからず、これ以上は工数が膨らむと判断した段階で、私は分かる人に確認しました。
結果的には、システム上の登録名が通常とは異なる表記になっていました。
・作業者は、見つかるまで探します。
・独立プロフェッショナルは、探すコストまで管理します。
自分にとって必要な作業かどうかだけでなく、その時間が企業にとって合理的なコストなのかまで考える。
これも、会社の外で価値を出すために必要なOS変換です。
OS変換3 報告するのではなく、判断できる状態まで整える
ある仕事で、新しい業務提携の進め方について現場から相談を受けました。
複数の会社が関係する仕事だったため、三社で情報を共有した方が効率的ではないかという提案です。
一見すると、合理的な進め方です。
ただし、関係する法令や、それぞれの会社が契約上どの業務を担当するのかも考える必要がありました。
現場から来た相談を、そのまま経営者へ転送することもできます。
「こういう相談が来ていますが、どうしましょうか」
これでも、情報共有という意味では間違いではありません。
しかし、それでは判断に必要な調査を経営者へ戻すことになります。
そこで私は、自分で論点を調べ、法的に注意すべき範囲と実務上の役割分担を整理しました。
そのうえで、
「この範囲を守れば問題ないと考えます。この進め方でよいのではないでしょうか」
というところまでまとめて報告しました。
経営者から返ってきたのは、👍のスタンプ一つです。
私は、それでよいと思っています。
経営者に長い返事を書いてもらうことが目的ではありません。
必要な判断材料をそろえ、最小限の負担で意思決定してもらうことが目的だからです。
仕事の報告は、調べたことを伝えれば終わりではありません。
・相手は何を知りたいのか。
・何が分からないために判断できないのか。
・どこまで整理すれば、すぐに決められるのか。
そこまで考え、相手が「了解」と返せる状態まで整える。
私は、これを「判断コストを減らす仕事」と考えています。
作業内容を報告する立場から、経営者の意思決定を支える外部人材へ。
これも独立プロフェッショナルに必要なOS変換です。
OS変換4 部下を管理するのではなく、仲間が力を発揮できるよう支える
別の案件では、経験の浅いディレクターと一緒に、クライアントとのキックオフミーティングに参加しました。
彼女は事前に、
「ディレクター経験がまだ浅いので、少し緊張しています」
と話していました。
私は、
「良いクライアントなので大丈夫です。何かあればいつでもサポートします」
と伝えました。
実際には、ほとんど心配する必要はありませんでした。
彼女は案件の概要を自分なりに整理し、ミーティングのための資料を準備していました。
事前に資料を共有してもらい、私から必要な補足事項を伝えると、それもしっかり反映されていました。
そして迎えたキックオフミーティング。
クライアントから、
「もう、ここまで準備できているんですか」
と驚きの声が上がりました。
私は思わず、
「うちのディレクターは優秀ですから(笑)」
と答えました。
会社組織であれば、経験のある私と若いディレクターは、上司と部下のような関係に見えるかもしれません。
しかし、業務委託で構成されるチームに、そのような上下関係はありません。立場はフラットです。
だから、必要なのは上から指示を出して相手を動かすことではありません。
・自分が持っている経験を、必要な分だけ渡す。
・本人が考え、準備したことを尊重する。
・足りない部分だけを補い、最後は本人を前に立たせる。
そして、本人がよい仕事をしたときには、その評価を本人に返す。
会社員時代に身につけたマネジメント経験は、部下を管理するためだけのものではありません。
フラットなチームの中で、仲間が力を発揮し、成長できる環境をつくるためにも使えます。
人を管理する立場から、仲間の成長を支える外部人材へ。
これも、独立プロフェッショナルに必要なOS変換の一つです。
独立プロフェッショナルに必要なのは、新しい能力より経験の使い方
独立プロフェッショナルになるためには、特別な能力を新たに身につけなければならない。
そう感じる方もいるかもしれません。
しかし、私はそうは考えていません。
50代、60代まで会社員として働いてきた人は、すでに多くの経験を持っています。
・部下や後輩を育てた経験。
・社内の意見を調整した経験。
・トラブルに対応した経験。
・経営者や取引先へ報告した経験。
・仕事の優先順位を決めた経験。
問題は、能力がないことではありません。
会社の中で使ってきた経験を、会社の外でどのように使えばよいのかが分からないことです。
必要なのは、経験を増やすことよりも、経験の見方と使い方を変えることです。
・自分ができることを一方的に売るのではなく、変わろうとしている会社を見つける。
・自分が何時間働いたかではなく、その時間が企業にどのような価値を生んだかを見る。
・情報を報告するだけではなく、相手が判断できる状態まで整える。
・年齢や経験を使って人を管理するのではなく、仲間が力を発揮できるよう支える。
こうしたOS変換ができれば、会社員時代に身につけた経験は、会社の外でも十分に価値を持ちます。
そして、自分の経験が必要とされる場所を見つけ、力を発揮できる環境を自分でつくる。
これが、私が独立プロフェッショナルの核と考えている「環境設定能力」です。
私は、誰にもまねのできない特殊な成功法則をお伝えしたいのではありません。
自分自身が試行錯誤しながら、会社員経験を社外の仕事へ変えてきた過程を共有したいのです。
私にもできたのだから、同じように会社員として経験を積んできた人にも、できる可能性がある。
経験の見方を変え、使い方を変え、自分の力が必要とされる環境を見つける。
そのための実践方法を一緒に考え、実際に行動へ移していく。
それが、私が「独立プロフェッショナル」という働き方で一番お伝えしたいことなのです。
よくある質問
-
Q会社員としての経験は、本当に会社の外でも通用しますか?
はい、もちろんです。ただし、会社の中でやってきた仕事をそのまま持ち出せば通用するとは限りません。
大切なのは、部下の管理、社内調整、報告、トラブル対応といった経験を企業が抱えている課題の解決に役立つ形へ変換することです。
独立プロフェッショナルに必要なのは、まったく新しい知識を身につけることよりも、これまでの経験の見方と使い方を変えることです。 -
Q「課題がある会社」と「変わろうとしている会社」は、どう見分ければよいですか?
ポイントは、その会社が問題を認識し、実際に変えようとしているかどうかです。
外から見ると非効率なことがあっても、会社自身が困っていなければ、改善の優先順位は上がりません。
一方で、「このままではいけない」「改善したいが人手や経験が足りない」と考えている会社には、外部人材が力を発揮できる余地があります。
課題の多さではなく、変化への意思と外部の力を受け入れる受援力を見ることが大切です。 -
Q起業と独立プロフェッショナルは何が違うのですか?
一般的な起業では、自分の商品やサービスをつくり、それを顧客に販売するところから始まることが多いでしょう。
一方、独立プロフェッショナルは、企業の中にある課題を理解し、会社員時代の経験や知見を使って、経営や現場を支えます。
「自分なら直せる」と考えるのではなく、「相手は本当に変えたいと思っているか」から考えることが、大きな違いです。 -
Q管理職経験は、業務委託の仕事でどのように活かせますか?
業務委託のチームでは、会社組織のような上司と部下の関係ではなく、基本的にフラットな立場で仕事をします。
そのため、指示や管理によって人を動かすのではなく、自分の経験を必要な分だけ渡し、相手が力を発揮できるように支えることが重要です。
本人が考えたことを尊重し、足りない部分だけを補い、最後は本人を前に立たせる。こうした関わり方にも、会社員時代のマネジメント経験を活かせます。 -
Q独立プロフェッショナルになるために、資格や新しい専門スキルは必要ですか?
必ずしも、新しい資格や高度な専門スキルが必要なわけではありません。
50代、60代まで会社員として働いてきた方は、すでに多くの経験、判断力、調整力、実行力を持っています。
必要なのは、自分の経験がどの企業の、どの課題に役立つのかを整理し、力を発揮できる環境を見つけることです。
経験を社外価値へ変換する視点と、自分に合う場所を選ぶ環境設定能力が独立プロフェッショナルへの第一歩になります。
会社の外で経験を活かすヒントを、これからもお届けします
私自身が独立プロフェッショナルとして仕事をする中で得た気づきや、会社員経験を社外価値に変えるための考え方を、メルマガでお届けしています。
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